費用についてよくあるQ&A【過去の問い合わせからの抜粋】
現在、かかりつけ歯科医院でブレースによる矯正治療を受けています。治療開始前に、だいたい私のような成人矯正の場合、2年ぐらいの治療期間(動的治療期間)がかかるとお聞きしていました。ところが、現在すでに治療を開始して3年が経過しようとしています。急に不安になってきたので、院長先生にいつになったら終わるのか尋ねてみました。しかし、あいまいな返答しかありません。来院する度に、月々の調整費用として10,500円がかかっています。この状態では、わざと治療期間を延ばして、治療費を高くしようとしているのではないかと疑心暗鬼になってしまいます。少しでも不安を解消できればいいなと思いメール相談させて頂きました。
ご苦労察します。ほぼ3年通院されていることで、たぶん調整料金として10,500円×36回=約378,000円ぐらいお支払いされていることと思います。矯正治療費は一般的に『初診料+診査・診断料+装置装着料』+『調整管理料』で構成されます。もし『初診料+診査・診断料+装置装着料』のお支払いの時点で例えば500,000円のお支払いが完了しているとすれば、全体の矯正費用として計878,000円+αぐらいの費用がかかると推測できます。この成人矯正費用の総額は一般的にみて、安すぎることはありませんが、高すぎることもありません。現実的には装置の種類などによって治療費用にばらつきがありますので一概には言えませんが、大学の矯正科の一般的な料金設定と比較すると標準的な範囲だと考えられます。
今後のことですが、現時点で歯並びがおおまかに改善されていても、まだフィニッシング(緊密な咬みあわせの仕上げ)に約3~6カ月間は必要だと推測されます。そして一般的には、動的治療期間の終了後、保定期間に移行します(後戻り防止の管理)。よって、まだしばらくの間は矯正管理が継続すると心づもりされていた方がいいかと思います。保定装置は現在の装置撤去後、新たに作製することになると思います。その装置の費用や保定管理料などはどうなるのか、早めにもう一度確認されることをお勧めいたします。
以下に当院での成人矯正症例を示します。時間配分を含めた矯正治療全体流れをご理解いただければ幸いです。
【症例】 20歳 女性
歯並びがガタガタしているのが気になる。
右の症例写真(1)~(5)は矯正治療全体の一連の流れを示します。成人矯正でのマルチブラケット(ブレース)治療において、一般的に写真(1)~(3)で動的治療期間全体の約2/3の時間を費やします。動的治療期間とはブラケット(ブレース)を歯に装着している期間のことをさします。例えば全体の治療期間を約2年間と仮定すると約1年半ぐらいを目標に(3)までの治療を進めていきます。そして残りの半年間を写真(4)のフィニッシングステージに使用します。
このフィニッシングステージ(写真4)は咬み合わせの最終仕上げの期間で、矯正後の審美・機能の安定性に影響を及ぼすとても大切な動的治療期間です。また、非常に矯正医の技術が問われる部分でもあります。近年流行のスピード矯正などで陥りやすい問題点はこのフィニッシングステージを粗末に扱って動的治療期間を早期に終了させてしまうことかもしれません。
豊富な経験と高度な技術をかね備えた矯正医は全体の治療期間のバランスと仕上がりの質を常に考慮しながら治療を進めていきます。
下の写真(3)~(4)は下から見上げたフィニッシングステージ(仕上げ段階)での咬み合わせの変化を示します。緊密な咬み合わせを獲得するために顎間ゴムを使用しています。このケースにおいて全体の治療期間は約2年で、フィニッシングステージで約6カ月間を要しました。
下の写真は後戻り防止のためのリテーナーという装置です。動的矯正治療終了後、ブラケット(ブレース)を除去した後、すぐに使用を開始する必要性があります。一般的に装着期間の目安は動的治療期間と同じ長さです。例えば、2年間の動的矯正治療期間を要した場合には2年間リテーナーを装着する必要性があります。
下の写真は動的治療期間から保定治療期間へ移行し、リテーナーを装着した状態を示します。初めの1年間は昼夜を問わず装着するべきです。ブラケット(ブレース)を除去した直後は患者様の後戻りへの意識が高く、装着率がいいのですが、だんだん気が緩んでサボる傾向にあります。ただせっかく苦労して獲得したきれいな歯並びを維持するためには重要なステップですので、厳守が基本となります。右図はできるだけ目立ちにくいタイプのリテーナーで、前方部は透明強化プラスチックで加工されてあります。動的治療期間終了後も、こういったできるだけ装着ストレスの少ないリテーナーでしっかりと長期に装着して頂きたいと考えております。
before & after
現在、かかりつけ歯科医院で子供が矯正治療を受けています。すでに始めてから4年が経ちますが、逆にだんだん永久歯が萌えるにつれて全体的な咬み合わせのずれが大きくなってきているような気がします。初めは下の前歯のガタガタで相談したのですが、永久歯のスペースをつくるために顎(アゴ)を広げるということで、先生からは床矯正を勧めて頂きました。費用も安く、子供にとっても受け入れやすそうな感じでしたので、治療をお願いしました(装置費用として80,000円を支払いました)。素人考えですが、このままではたぶんきれいな歯並びにならないような気がします。いままでネジ式の床装置を1個作って頂いたのですが、今後どのような治療になるのかと尋ねてみても先生は不機嫌な感じで対応されますし、将来を考えると不安になるばかりで転院を考えております。あつかましいようですが、こういった場合は費用の返還などはあるのでしょうか?一時は前歯の歯並びがよくなったような感じがしましたが、現在では後戻り?しているような感じです。つきましては、セカンドオピニオンを頂戴したく、お伺いしたいと考えております。宜しくお願い致します。
ご苦労察します。最近の矯正相談でよくある相談が、長年、床矯正をしているが、一向に治らないという相談です。まことに失礼かもしれませんが、我々の業界でそのような患者様たちは『床矯正難民』とささやかれているぐらいです。床矯正という治療は、入れ歯のような取り外し可能の矯正装置で、安く簡単に治療できるということで近年ブームになりかけています。この床矯正という治療方法自体に問題があるというのではなく、矯正治療の経験の少ない歯科医師が、何でもかんでも床矯正治療のみで治そうとするので『床矯正難民』が急増しているのです。私自身もこの床矯正を自分の臨床にも取り入れているので、この治療法の長所も短所も十分に把握していますが、決して全ての患者様を治療できる方法ではないと考えております。また床矯正治療を行う場合には、患者様の協力度はどれぐらいだろうか?床矯正単独で治療完了でき、維持できるのだろうか?また追加のII期矯正治療、例えば成人矯正で使用するワイヤー矯正(マルチブラケット/ブレース治療)が後に必要になってはこないか?永久歯の萌出が進んだ再診査時に抜歯の可能性があるだろうか?など考え、患者様の治療目標の程度や適応症を見極めながら、術前に総額の費用を含めてお話させて頂いております。
簡単に言ってしまえば、床矯正治療は簡単な型取りで装置を作製し患者様自身に装着してもらうだけですので、どちらかと言えば入れ歯を装着するような感じで、ワイヤー矯正(マルチブラケット/ブレース治療)に比べて一般の先生にとって技術的に受け入れやすい面があるかもしれません。またワイヤー矯正(マルチブラケット/ブレース治療)に比べて調整が単純です。しかし、調整が単純ゆえに複雑な歯の動きには対応するような装置ではありません。時として、一部の矯正医たちにより床矯正治療が邪道扱いされ、ワイヤー矯正よりワンランク下の治療のように言われることがあるのは、上記のように経験の少ない先生方が歯型を採って、出来てきた装置を患者に装着してもらえばいいという安易な感覚で、何でもかんでも床矯正で治療する姿勢に対してではないかと思います。
よって床矯正治療が今のような普及の仕方を続けていけば、床矯正治療=低レベルな矯正治療という図式を作りかねません。歯科医師及び患者様の両者にとって‘安い、簡単’という理由だけで、床矯正治療を決断するのはどんなものかと考えさせられてしまいます。
今回の場合の歯科医院からの費用の返金に関しては、治療前の契約内容にもよりますが、現実的には治療をすでに行っていますので難しいと考えられます。お子様にとっての今後の有益な治療のために、しっかりとした治療計画の立案できる矯正歯科医をお探しになり、できるだけ早期に転院されることお勧めいたします。
中途半端に支払いが完了しており、転院すると費用面を含めて治療責任の所在がどこにあるかがはっきりしなくなることが『難民化』する特徴だと考えます。
以下に3つの当院での小児矯正治療の実症例を示します。治療ケースを通して、全体の流れをご理解いただければ幸いです。
7歳 女の子
学校検診で歯並びを指摘された。下の前歯がガタガタしているのが気になる。
治療の流れ
顎(アゴ)の大きさと永久歯の大きさの不調和が予測されましたので、早期に顎(アゴ)を側方に成長させて永久歯萌出のためのスペース確保に努めました。
上顎は固定式の拡大装置を、下顎は取り外し可能な床拡大装置を装着した状態です。
混合歯列期の早期に顎(アゴ)の発育成長がコントロールできたことにより、永久歯は自然と適切な位置に萌出しました。通常ではその後、定期的な経過観察を行います。時期を見て、必要があれば追加マルチブラケット(ブレース)矯正を行う可能性があります。
before & after
8歳 女の子
前歯の歯並びを治して欲しい。出っ歯が気になる。
治療の流れ
もともと小児蓄膿があるということで、上顎(うわアゴ)=口蓋の成長の遅れが認められ、顎(アゴ)の大きさと永久歯の大きさの不調和が予測されました。このままでは将来的に舌の位置も安定しにくく、いったん歯並びを治しても後戻りなどを誘発する可能性が高くなるため、まず早期に固定式拡大装置による上下顎の側方拡大を行い顎(アゴ)の成長を促進させました。
拡大治療により下顎(したアゴ)においては非抜歯で対応可能な配列スペースの確保ができました。その後、上顎(うわアゴ)のみ2本の永久歯抜歯を行いマルチブラケット(ブレース)治療で最終仕上げを行いました。結果的に上顎(うわアゴ)の拡大治療を行うことにより、鼻の通りもよくなりました。この症例においては約3年半かかりました。
before & after
9歳 女の子
学校検診でいつも歯並びを指摘される。鬼歯をきれいに治したい。
治療の流れ
明らかに犬歯が大きく飛び出すほど、顎(アゴ)の大きさと永久歯の大きさに不調和が認められました。年齢的に顎(アゴ)の成長促進だけでは限界があると判断されたため、顎(アゴ)の拡大などを行わずに上下で4本の永久歯便宜抜歯によりスペースの確保を行いマルチブラケット(ブレース)治療を行いました。
一般的に、マルチブラケット(ブレース)治療の完了時期は12歳臼歯(第2大臼歯)の萌出後です。治療期間を不用意に長くするのを避けるために、 12歳臼歯(第2大臼歯)の萌出時期を考慮しながら治療を開始する必要があります。この症例においては約3年間かかりました。