豆知識
※肝臓がんや肝疾患で死亡する方の70~75%はC型肝炎が原因です。
潜在患者数は100万人から200万人?
約6割が感染経路不明という「C型肝炎」の恐怖
日本最大の感染症とされる肝炎の総合対策を盛り込んだ法律が2009年11月に議員立法で成立し、2010年1月から施行された。4月から医療費助成の拡充、治療における自己負担限度額を引き下げた。そもそもC型肝炎とはどういう病気なのか、そして今後の課題や対策とは。武蔵野赤十字病院の泉並木副院長に話しを聞く。
肝臓は自覚症状がない「沈黙の臓器」気づいたときには手遅れの場合も
東京医科歯科大学医学部卒業後、同大学付属病院勤務を経て武蔵野赤十字病院へ。
現在、同病院の副院長・消化器科部長であり東京医科歯科大学医学部臨床教授、近畿大学医学部客員教授も兼任。
厚生労働省B型・C型肝炎治療標準化研究班委員
「自分だけは大丈夫ってみなさん思ってらっしゃるんですね。しかし、それは何の根拠もなくて、ある日突然症状が出たときには手遅れ。肝臓は、『沈黙の臓器』といって、全然症状がないのが特徴ですから」
こう述べるのは武蔵野赤十字病院の泉並木副院長だ。
C型肝炎とは、C型肝炎ウィルスに感染して起こる肝臓の病気。血液によって感染し、最悪の場合、最終的に肝硬変や肝臓がんになって死に至るケースも少なくない。
1992年にきちんとしたC型肝炎の検査ができるようになるまでは、輸血によって感染した患者さんが最も多い。1992年以降、輸血による感染はほとんどないが、それ以前に輸血をしたことがある人は、C型肝炎に感染している恐れがある。また、輸血以外の感染経路としては、注射針の回し打ち、ピアス、入れ墨、タトゥーなどによって人の血液が付着した針が感染源になる。入れ墨をしている人や、薬の回し打ちの経験がある人は、C型肝炎に感染している可能性も否定できない。
さらに泉氏は、感染経路や自覚症状について、以下のような問題点を指摘する。
「C型肝炎と言われている患者さんの約6割が、実際にどこから感染したか色々調べてみても、全く輸血も受けたことがない、針を注射したこともないという感染源が不明の状態にあります。日常生活の中で血液が付着するような行為は多々あるので、自分が輸血や手術を受けたとか、あるいは針の注射をしたことがない、という患者さんでもC型肝炎にかかっている可能性は十分にあります。
また、感染していても全く自覚症状がありませんし、『肝機能は正常』ということも少なくありません。ですから、毎年会社の健診や健康診断を受けておられて、1度も肝臓が悪いと言われたことがないにも関わらず、C型肝炎に感染しているという方が非常に多い状況です」
現在、日本におけるC型肝炎の潜在患者数、つまり、本人が気づかないうちにC型肝炎ウイルスに持続感染している人は、100万人から200万人と推定されている。この潜在患者数についても泉氏は、次のように言及する。
潜在患者数は100万人から200万人?約6割が感染経路不明という「C型肝炎」の恐怖
「肝炎症状のない持続感染者の割合(キャリア率)を調べると、大体1.1%。それを含めて考えると、少なくとも80万人、多ければ200万人くらいの肝炎患者と潜在患者がいると推定されます。
そして、インターフェロンという薬での治療をお受けになっている方がだいたい30万人弱。従って、100万人以上の方が、C型肝炎に感染しているにも関わらず、その事実に気がついていない可能性があります」
C型肝炎は、感染時期が明確ではないことや自覚症状がないことが多い。そのため、適切な時期に治療を受ける機会がなく、本人が気づかないうちに肝硬変や肝がんへ移行する感染者が多く存在する。泉氏によれば「C型肝炎に感染している方の約6割から7割が、放っておくと肝硬変や肝臓がんに進行するという試算がある」という。
厚労省の平成21年人口動態調査結果によると、がんは日本人の死亡原因の第1位を占め、34万人以上の人ががんで亡くなっている。その中で、肝臓がんによる死亡者は、約3万3000人にのぼる。さらに肝疾患で死亡する人は1万6000人。あわせて約5万人だ。
「肝臓がんや肝疾患で死亡する人の70%~75%はC型肝炎が原因です。今は、検診や胃の内視鏡検査を受ける際にC型肝炎の検査をお受けになって、たまたまC型肝炎に感染していたことがわかった方が圧倒的に多い。だからこそ一生に一回は、全然自分に身に覚えがないという方でも、肝炎検診を受けていただきたいと思います」(泉氏)